深夜特急~マレー半島、シンガポール篇
マカオを出発した作者が次に向かった
先はマレー半島で、バンコク、ペナン、
シンガポールと周ります。
作者は前巻の香港を、あまりにも素晴ら
しく衝撃的で一日として心が震えない日
は無かったほど興奮し続けた場所とし、
それに対してこの巻で訪れた国の全てに
何の魅力も感じられなかったとしています。
きらびやかな寺院や美しい海など風光明媚な景色や、
近代的な建物と町並みには全く興味が持てないらしく、
バックパッカーやライターならではの視点と感性は、
当然ながら、私のような凡人とは違います。
彼は思い付きで次の行き先を決め、行き当たりばったり
の中でとにかく安上がりな宿を選び、むやみに恐れる事
なく、道中関わった人との一期一会を楽しみます。
出会いも災難も思わぬアクシデントも全て、書くネタに
なるけれど、それは作者が男(しかも大柄)だから
できる事で、女性には到底無理っぽい。
決まった環境に居続けねばならない会社員は性に合わない
そうで、社会人初日の初出勤当日に会社を辞めてしまった
エピソードにも、作者の個性と大物感が滲み出ています。
「どんな世界にでも自由に出入りでき、必ず出てこられる
保証があるからこそ、苦痛に満ちた世界でも面白く、何者に
でもなれるルポライターの仕事は楽しい」と終盤の一文に
ありますが、そんな天職とも言えるライターのきっかけを
作ったのは、彼の大学の恩師でした。
その辺りの経緯も、この巻で興味深く書かれています。
紀行文でありつつ、其々のお国柄や当時の社会情勢、現地の
人々の暮らしや貧民街の様子、闇社会や関わった人たちの事
など、ルポルタージュ的要素が大きく入っていて勉強になる
と同時に、ちょっとしたカルチャーショックを受けました。