2020年9月10日木曜日

本のお話331 月桃夜

遠田潤子第7弾 月桃夜

江戸時代と現代における2組の兄妹の
禁断の愛の物語ですが、最も衝撃を受
けたのは、薩摩藩の支配下で虐げられ
搾取され続けた奄美群島の島民の想像
を絶する暮らしぶりでした。

支配される側の人間にこれっぽっちの
人権もなく、最下級に属する者の生んだ
子は、家族と同じく一生奴隷労働の運命
にあると言う。
凄惨なエピソードの数々に言葉を失います。

彼らを働かせる主取の上には監視役が居て、その上
には島役人、更にその上の薩摩藩、そして支配の頂点
に君臨する江戸幕府と、幾重にも重なるピラミッドの
構図が浮かび上がってきます。

山の神、悪霊、死者の魂、現世とあの世の間で彷徨う霊達、
姿を変えてその時を待ち望む鷲など、ファンタジー要素満載
ですが、ファンタジー小説にしては妙にリアルで生々しくて
辛いのは、残酷な史実を基にしているからに他ならず・・・

当時の島民の信心深さを象徴する文化や風習、そして南国の
実や花とその香りが、無性に物語の切なさを掻き立てます。

今の時代に生まれていたら、自分の人生を生きられたで
あろう人たちの数えきれない無念の嘆きが聞こえてきそう。

残念なのは、主人公の少年フィエクサの選択で、この時代の
過酷さと彼の類稀なる才能を思えば、到底納得できない私でした。