宮本輝第21弾 月光の東
塔屋米香を巡る2つの視点から交互に
語られる形で物語は進行します。
かつて米香に惹かれた中学時代の同級生
と、彼女が原因と思われる自殺で夫を
亡くした妻が出会い、各々が奔走し、
米香の足取りを追ううちに、徐々にその
実像が現れていきます。
米香は女を武器に打算と計算ずくで
成り上がるしたたかさとあざとさを持つ魔性の女ですが、
ゆるぎない信念と行動力で人生を切り開いた魅力的な女性
でもあります。
ただ、事情はどうであれ、彼女に翻弄された人達にとっては、
たまったもんじゃない。
そんな米香の人生には、常に孤独と寂しさが付き纏ったのでは
ないでしょうか。
様々な人の証言から米香の人となりや来し方が伝わりますが、
彼女目線で語られることは無く、異国の地で自死を遂げるに
至った男性とのいきさつが最後まで明かされず、すっきりしない
読後感となりました。
この物語に於いても「美し過ぎる女性は薄幸な人生を送りがち
になる」という作者の持論が生かされています。