2018年11月30日金曜日

本のお話288 森の中の海

宮本輝第15弾 森の中の海

作者作品は15作目で、本のお話135の
「骸骨ビルの森」以来です。

この物語は、主人公が西宮の自宅で大震災に
遭うところから始まります。

たまたま夫と前日に喧嘩して、リビングで
寝たお蔭で命が助かった主婦の希美子は、
震災後の混乱のさ中に夫の裏切りを知り、奈落の底に
突き落とされます。
そこから彼女がどの様にして這い上がり、何を生きるよすがに
再生して行くのかが、不思議な幾つものご縁と共に描かれています。

夫と姑から耐えがたい仕打ちを受けても、恨みつらみに
捕われることなく、前を向いて生きる主人公が素敵です。
世間から隔絶された山林にひっそりと佇むお屋敷が舞台で、
奥飛騨の森の澄んだ空気が漂ってくるかのようです。
表紙絵の大木も、物語の重要なツールとなっています。

これもストーリー的に「骸骨ビルの庭」と共通する部分があり、
どちらも、甲乙付け難い名作です。

そう言えば、作者が自身の父親を描いた流転の海シリーズが、
36年かかって、最近やっと完結したとか・・・
どれも前作から何年も空くので、次を待つのも忘れがち。
私は「慈雨の音」で止まってましたが、その後に出た3作を早く、
読まねば!!でもやっぱり、底値になるまで待っていよう。