葉室麟 蜩ノ記
感動の名作でした。
背景が複雑な分、数日空くと、あれっ?この
人誰だっけ?なぜそうなったの?等と常に
ページを遡りながら電車の中でだけ読んで
いたため遅々として進まなかったのが、ある
ところから急激に引き込まれていきました。
渦巻く陰謀を背景に繰り広げられるミステリ
ー仕立ての時代小説で、様々な階級の武士の
境遇や社会、村人の暮らしぶりがよく分かり、
勉強になります。
幽閉中の元郡奉行と監視役を命じられた青年の行く末を
案じながら、謎の解明に向けて読み進める訳ですが・・・
もとを正せば、ほんの些細な失敗や、その場にたまたま
居合せた偶然によってこれほどまでに人の運命が変わって
しまうなんて・・・
農民には農民の、武士には武士の苦労が有り、この時代に
生きる人達はみな一様に大変そうです。
子供の頃に読んだ「ベロ出しチョンマ」の長松を彷彿とさせる
少年が登場しますが、子供の命さえ理不尽に奪われる恐ろしい
世の中に慄然としました。
時代ものは概して卑劣な人間と高尚な人間の描き方が極端で
これもご多分にもれず、登場人物はそのどちらかに分類される
傾向にあります。
秋谷、庄三郎はもちろんですが、2人の少年のあまりに気高く
勇敢な姿に胸打たれる一方で、彼らに比べ自分の器の小ささを
思い知らされる気分です。