2020年5月30日土曜日

本のお話325 蜩ノ記

葉室麟 蜩ノ記

感動の名作でした。

背景が複雑な分、数日空くと、あれっ?この
人誰だっけ?なぜそうなったの?等と常に
ページを遡りながら電車の中でだけ読んで
いたため遅々として進まなかったのが、ある
ところから急激に引き込まれていきました。

渦巻く陰謀を背景に繰り広げられるミステリ
ー仕立ての時代小説で、様々な階級の武士の
境遇や社会、村人の暮らしぶりがよく分かり、
勉強になります。

幽閉中の元郡奉行と監視役を命じられた青年の行く末を
案じながら、謎の解明に向けて読み進める訳ですが・・・
もとを正せば、ほんの些細な失敗や、その場にたまたま
居合せた偶然によってこれほどまでに人の運命が変わって
しまうなんて・・・

農民には農民の、武士には武士の苦労が有り、この時代に
生きる人達はみな一様に大変そうです。
子供の頃に読んだ「ベロ出しチョンマ」の長松を彷彿とさせる
少年が登場しますが、子供の命さえ理不尽に奪われる恐ろしい
世の中に慄然としました。

時代ものは概して卑劣な人間と高尚な人間の描き方が極端で
これもご多分にもれず、登場人物はそのどちらかに分類される
傾向にあります。

秋谷、庄三郎はもちろんですが、2人の少年のあまりに気高く
勇敢な姿に胸打たれる一方で、彼らに比べ自分の器の小ささを
思い知らされる気分です。