2020年8月10日月曜日

本のお話329 蓮の数式

遠田潤子第5弾 蓮の数式

これを読んで真っ先に浮かんだのが、
「満開の花一面の蓮田をいつか見て
みたい」という思い。
出来れば、ポンポンと音を立てて
次々に花開いていく夜明けの蓮田を。

巻末解説に「澄んだ水に咲く蓮は、
小さな花しか付けられず、大輪の花
は、泥沼でのみ咲く」と書かれて
います。それなら、見に行くのは、
このお話に出て来る様な蓮根畑と
いうことになるね。

今まで同様、精巧なミステリーでしたが、
今回は珍しく、女性が主人公でした。
2つの視点で語られる2つの物語。
さて、それらはどの様に交わっていくでしょうか。

物語の中心となるお相手の男性はと言うと・・・
無口で無愛想なところは同じでも、逆境に抗いながら
信念を持って生きるこれまでの心優しい男達とは
かけ離れた氷の様な冷たさを感じさせる人でした。

今までの主人公が特別で、彼らの育った過酷な環境を
思えば、それは、むしろ自然な姿かもしれません。

更に、事実とされる事象についても、別の角度から
見れば、また違った側面が浮かび上がってくるなど、
人間の多面性が、興味深く描かれています。

好き嫌いや善悪を越えて、珍しく心の琴線に触れた作品でした。