桐野夏生第9弾 玉蘭
これは、船乗りだった作者の大叔父が残した航海日記を
ヒントに作られた物語だったと巻末解説で知りました。
自殺した大叔父の残した日記が物語にそのまま引用されて
いるなんて、驚きです。
社会生活にも恋人との関係にも見切りを付け、新たな道を
探るべく上海に留学した有子と、彼女の前に時折現れる
大叔父、質の亡霊。質はいつも会いたい時には現れず、
そうでない時に現れます。
年代の違う二人の物語は、70年の時を超えて交錯します。
どちらのお話もファンタジ-と呼ぶには余りにも生々しく、
苦しみに満ちたものでした。
質が船乗りだった頃の中国は、彼の内妻の浪子の様な寄る辺
の無い身上の女性が生き抜くには極めて困難な場所で、
他の問題も加わって、浪子は命の危険に晒され続けます。
一方、現代の上海に暮らす有子は、閉鎖的なコミュニティの
中で募る焦燥感と孤独に苛まれ、徐々に自分を見失っていきます。
過去と現代、二組の男女の運命は如何に!
最後まで重苦しく理不尽な物語でしたが、全く救いがないかと
言うと、そうでもなく・・・
玉蘭(ハクモクレン)の香りが漂ってくるかのような、切なくも
妖艶で不思議なお話でした。