2020年3月5日木曜日

本のお話319 太陽の子

灰谷健次郎 太陽の子

暫く余韻を噛みしめるほどの名作です。
戦争の影が重くのしかかる悲しい物語ですが、
心温まる物語でもありました。

神戸で沖縄料理店を営む両親の下で育った
小学5年のふうちゃんは、太陽の子と呼ぶ
にふさわしい天使の様な少女です。

天真爛漫でありながら、関わる全ての人に
深い思いやりを持ち、強くて賢く、その上
とってもユーモラス。
更に勇気と美しさを兼ね備えたこんな完璧
な子供が、一体どこに居るのでしょう。
絶対!と言わないまでも、そうそう居ないはずだ。

それにしても今の世の中では、難しいだろうなあ・・・
担任教師が一生徒のふうちゃんと個人的に深く関わる
ことも。
道を踏み外した少年を店に雇い入れ、みんなで力を
合わせて更生させることも。
心を病むふうちゃんのお父さんを、同郷の仲間と
近所の人たちが一丸となって、とことん支え続けることも。
ふうちゃんの店の常連たちが、家族同然であることも。

それは、同郷の縁で結ばれた人たちの強い絆と、良き時代の
土地柄の成せる技ですが、それ以上に、登場人物其々がとても
優しく、おせっかいなまでに世話好きということがあります。

平和で豊かな今の暮らしは、戦争の犠牲となった幾多の
人々の上に成り立っていることを忘れてはならないことや、
もし、大切な人の心の奥底に深い悲しみが在るのなら、
一歩踏み込んで知ろうとすることの大切さを、ふうちゃん
を通して作者が語りかけているかの様です。