灰谷健次郎 太陽の子
暫く余韻を噛みしめるほどの名作です。
戦争の影が重くのしかかる悲しい物語ですが、
心温まる物語でもありました。
神戸で沖縄料理店を営む両親の下で育った
小学5年のふうちゃんは、太陽の子と呼ぶ
にふさわしい天使の様な少女です。
天真爛漫でありながら、関わる全ての人に
深い思いやりを持ち、強くて賢く、その上
とってもユーモラス。
更に勇気と美しさを兼ね備えたこんな完璧
な子供が、一体どこに居るのでしょう。
絶対!と言わないまでも、そうそう居ないはずだ。
それにしても今の世の中では、難しいだろうなあ・・・
担任教師が一生徒のふうちゃんと個人的に深く関わる
ことも。
道を踏み外した少年を店に雇い入れ、みんなで力を
合わせて更生させることも。
心を病むふうちゃんのお父さんを、同郷の仲間と
近所の人たちが一丸となって、とことん支え続けることも。
ふうちゃんの店の常連たちが、家族同然であることも。
それは、同郷の縁で結ばれた人たちの強い絆と、良き時代の
土地柄の成せる技ですが、それ以上に、登場人物其々がとても
優しく、おせっかいなまでに世話好きということがあります。
平和で豊かな今の暮らしは、戦争の犠牲となった幾多の
人々の上に成り立っていることを忘れてはならないことや、
もし、大切な人の心の奥底に深い悲しみが在るのなら、
一歩踏み込んで知ろうとすることの大切さを、ふうちゃん
を通して作者が語りかけているかの様です。