松本清張第17弾 火の路
電車の中でしか読まなかったとは言え、
読み終えるのに、こんなに日にちの
かかった本は珍しい。
学術論文を含め、古代史の専門的な記述が
大半を占める異色のミステリーです。
作者がいかに古代の謎に魅せられ、遺跡や
遺物に壮大なロマンを見出していたのかが
伺える一作で、作者の新たな側面を知った思いです。
小難しく少々面倒で(時に飛ばし読みもしつつ)、
遅々として読み進めなかった割にインパクトの強い
作品で、家に残しておきたい本の一つとなりました。
簡単に言うと、大学で史学科助手を務める女性主人公が、
飛鳥に散在する石造物の謎を追い、奈良の明日香村や
古墳群、果てはイランの地に赴き、調査考察の上、
論文を重ねて発表するというお話です。
なので、主人公には、れっきとしたモデルが居たに違い
ないと思いきや!!巻末解説から、通子がうち立てた
学説や辿った足取りは、作者のものと言えそうです。
ミステリーながら、テーマの中心はどこまでも古代史で、
隙間に人間模様が上手く織り込まれている感じです。
通子が出会った人達との交流を通して、学界の偏狭な
世界が垣間見えます。
最後に全てが解き明かされる作者の多くの作品と違って、
犯人や犯行動機について、一人の登場人物の憶測の域を
出ない結末にひっかかるものを感じつつも、やっぱり
これは、読者に畏敬の念を抱かせるほどの大作でした。
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