2014年8月8日金曜日

本のお話139 次郎物語

下村湖人 次郎物語

これも小学生の時から持ってる思い入れのある本で、何十年かぶりに
ページを開いてみました。4部、5部の文庫本は、ずっと後に買いました。
文庫本より単行本の3巻、特に主人公の10歳までを描いた第1部が、
印象に残っています。

下村湖人は明治大正昭和と激動の3時代を生きた教育者で、57歳から
この作品を書き始め、亡くなる前年70歳で第5巻を刊行し、続きを
書く事に思いを残して作品未完のまま、この世を去られたようです。
そのため、この長編は何とも中途半端な終わり方をしています。

これは本田次郎を主人公に描いた作者の自伝的作品です。
愛情を掛けて育ててくれた里親との幼児期の暮らし、嫌々、実家に戻されてからの
祖母と母に疎外されて辛く寂しかった日々、人格者の父や始めは馴染めなかった
兄や弟のこと、母との和解と死別、新しく迎えた継母、受験、上級生との戦い、
友情、恩師との出会い、その恩師の助手として運営に関わった塾のこと、等、
非常に盛り沢山の内容となっています。
次郎の青年期は、軍国主義の時代背景が物語に陰を落とします。

やんちゃで気が強かった次郎は、しょっちゅう突拍子のない行動を取って
周囲を驚かせてきましたが、どれを取っても、次郎の気持ちがよくわかること
ばかりでした。
自分だけが祖母から嫌われ、母親にも愛されないことで、理不尽なやるせない
思いを抱えて、時に感情を爆発させながらも、正しい道に導いてくれる父親や、
いつもどこかに理解者が居たことで、次郎は人として大きく成長していきます。

辛かったこと全てを前向きなエネルギーへと変えて行った次郎は、逞しく、
立派です。これは時代を超えた不朽の名作!