2014年4月9日水曜日

本のお話103 夕陽ケ丘3号館

有吉佐和子 夕陽ケ丘3号館

これは最近、友達が貸してくれた本です。
有吉佐和子さんの作品中では、名作「不信のとき」に分類される
面白さがあります。

40年程昔の高度成長期の、とある一流商社の社宅団地が舞台の
人間ドラマです。
主人公の主婦音子がマンションの様な自宅を甚く気に入り、
窓から見える美しい夕陽に因んで名付けた愛称が、このお話の
タイトルとなっています。

年頃の一人息子や社宅の人間関係に振り回されて、徐々に冷静さを
失って行く音子は滑稽ですが、そんな音子を含めた住人の人間臭さが
面白くて物語に入り込んでしまいました。

少し視点を変えるだけで、音子はもっと幸せになれる筈なのに、
と思うけれど、渦中に居る人間にはわからないものです。
何かのきっかけで、自分の過ちやそれまで意識しなかった幸せに
気付いても、時間が経つと、また欲が出るのが人間かもしれません。

住人同士の好奇心や噂話、トラブル、子供の成績や主人の出世に絡む
嫉妬が大げさに表現されているところも、読者を引き込む一大要因と
なっています。